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vol.7 子どもの近視が増えている! ~治療と対策~

vol.7 子どもの近視が増えている! ~治療と対策~

 

 

日本の子どもの近視有病率は世界トップクラス

 

近年、子どもの近視は日本、中国、韓国、シンガポールなどアジアの先進諸国を筆頭に世界中で増加傾向にあります。特に日本の子どもの近視有病率は高く、世界でもトップクラスです。

近視の発症には遺伝的な要因と、スマートフォンやパソコン、ゲームなど近くを長時間見る生活習慣や屋外活動の減少などの生活環境が影響していると言われており、コロナ禍を経て子どもたちの生活スタイルはますます近視化へと傾いています。

文部科学省が2022年に行った学校保健統計調査によると、裸眼(1.0)未満の子どもは、小学校で約38%、中学校で約61%、高校で約72%と過去最高であり、子どもの近視は増加傾向にあります。

 

 

 

これまで、近視は眼鏡やコンタクトで矯正すれば見えるものとして、あまり問題視されていませんでしたが、さまざまな疫学研究から、近視になると、将来白内障や緑内障、網膜剥離などの目の病気を起こす危険性が、近視でない人と比べて数倍~数十倍に増えることが明らかとなり、近年では「近視は予防すべき」という認識に変わってきています。

 

 

 

近視の多くは8歳~15歳の学童期に発症し、進行していきます。特に低学年ほど近視の進行スピードは早く、成長とともに緩やかになっていきます。また、最近は近視の発症年齢が低くなっており、就学前の6歳未満から近視を発症するケースもあります。

近視は基本的には一度進むと戻らないため、近視が進みだす学童期、もしくはそれ以前から予防を心がけることが、子どもたちが生涯にわたり良好な視機能を維持するために大切であると言えます。

 

 

近視のメカニズム

はカメラと似ており、瞳孔を通して外から入ってきた光を、水晶体と呼ばれるレンズで屈折させ、網膜に焦点(ピント)を合わせることで、くっきりとした像を見せます。

“近視”とは、目に入った光が網膜より手前に焦点を結ぶ状態で、ピントが遠方より手前のどこかに合っています。なので、近くはよく見えますが遠くの景色はぼやけて見えます。近視の発症には眼軸(がんじく)と呼ばれる目の前後径が大きく関与しており、眼軸が伸びると、伸びた距離だけ焦点を結ぶ位置が網膜よりも前方に移動します。その結果、近視が進行していくのです。

 

 

生まれたばかりの赤ちゃんの眼軸長は約17mmと小さく、殆どが“遠視”で、明るさを感じる程度の視力しかありません。生後、眼球や脳が成長し「きちんと見る」経験を重ねることで、視力や立体感などの視機能が育ち、5歳頃には大まかな立体感を獲得し、視力は1.0程度となります。そして、8歳頃になると、大人とほぼ同じ視機能となり、眼の発達は完成します。

眼の発達は8歳頃で完成しますが、眼軸長はその後も伸び、一般的に13歳頃には成人と同じ24mm程となり、成長期が過ぎるまで眼軸長の成長も続きます。眼軸長24mmが、目の筋肉をリラックスさせた状態で網膜にピントがピタリと合う長さであり、ここから先は眼軸長が伸びれば伸びるほど近視へと傾いていくことになります。眼軸長が26mmを超えると“強度近視”となり、将来、様々な目の病気を起こしやすくなります。

 

 

近視の原因

近視の発症には“遺伝的要因”と“環境的要因”の両方が関与すると考えられています。どちらがどれだけ近視の発症に関わっているかは定かではありませんが、両者がともに深く関係して近視になると考えられています。

 

▲遺伝的要因

遺伝的要因とは、先祖代々受け継がれている遺伝子による生まれつきの素質です。一卵性双生児の屈折度数は殆ど同じであることや、両親とも近視でない子どもに比べて、片親が近視の場合は2倍、両親とも近視の場合は5倍の確率で、子どもも近視になりやすいという研究結果が報告されており、遺伝子が近視の発症に関与することは間違いないと考えられています。近年は近視に関連する遺伝子の解析も行われており、病的近視など遺伝の影響を強く受けやすい近視があることも分かっています。

 

▲環境的要因

環境的要因として、「長時間の近見作業」と「屋外活動の減少」あります。

私たちの目は普段、レンズの働きをする水晶体を膨らませたり、縮ませることで網膜にピントを合わせて物をみます。このレンズの厚みを調整するのが「毛様体」と呼ばれる目の筋肉で、近くを見るときは毛様体を緊張させ、レンズを膨らませてピントを合わせます。近くを長時間見続けると、毛様体の緊張状態が続き、次第に焦点距離(網膜までの距離)を後方に移動させて順応しようとします。その結果、目の前後径(眼軸長)が伸び、近視が進行していくと考えられています。

親世代に比べ、現在の小・中学生の近視は急増しており、スマートフォンやタブレット、ゲーム機などの普及が近視の進行に影響しているのではないかと言われていますが、はっきりした関係は分かっていません。

一方、世界共通で認識されている近視の原因は「外遊びの減少」です。日光に含まれる紫外線が、網膜でドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の分泌を促します。このドーパミンが眼軸長の伸長を抑え、近視の進行を抑制する効果があると考えられています。

1日2時間程度の外遊びが、近視の発症予防や進行抑制に効果的であるとされており、台湾やシンガポールなどでは、近視対策のために国策として、学校と連携した外遊びの取り組みが行われています。その結果、シンガポールでは増加し続けていた近視の進行が減少に転じたと報告されています。

 

 

近視の進行を抑える対策

近視の進行を抑えるための環境対策には以下の3つが挙げられます。

 

 

 

画面が小さかったり、ゲームなどに集中していると。子どもはついつい画面に近づいてしまいます。ゲームや動画はテレビに接続して大きな画面に映したり、タブレットを置く台座を用意して画面に近づかないようにするなどの工夫もお勧めです。

また、屋外活動といっても、炎天下で遊ぶ必要はありません。曇りの日でも、日陰でも屋外であれば十分に明るさは確保されます。日当たりのよい室内も効果的です。危険な暑さが続いていますので、まずは熱中症対策を優先してください。

 

 

近視の進行を抑える治療

 

基本的に近視が治ることはなく、近視の進行を抑える治療が国内外で広く行われています。日本ではいずれの治療も保険適応外となります。

 

▲低濃度アトロピン点眼液

世界で最も広く行われている治療です。アトロピン点眼液は元々子どもの弱視や斜視の検査・治療薬として使われており、眼軸が伸びるのを抑える効果があることが分かっていましたが、まぶしさや目の痛み、手元が見えにくいなどの副作用があり、常用は難しい点眼液でした。このアトロピン点眼液を希釈し、近視の進行を約60%抑制する効果を維持したまま、副作用を殆ど生じない、子どもが安全に使用できるように調整した点眼液が0.025%アトロピン点眼液です。

2025年4月に日本で初めて参天製薬から0.025%アトロピン点眼薬である、リジュセアミニR0.025%が製造販売されました。

 

対象:5歳~18歳の軽度から中等度の近視の方

用法:就寝前に毎日点眼(1日1回)

価格:1か月分 3850円

 

 

 

▲オルソケラトロジー

通称「ナイトコンタクト」とも呼ばれ、特殊なハードコンタクトレンズを睡眠時に装着することで、寝ている間に角膜の形状を変形させてピントを調整し、日中眼鏡やコンタクトなしで良好な視力を得られる屈折矯正法です。オルソケラトロジーには、近視の進行を30~60%抑制する効果があることが報告されており、日中の視力の改善と近視進行抑制治療の両方を兼ね備えた治療法です。

親の管理のもと低年齢の子どもから選択できる治療ですが、-4.0D程度の中等度の近視までしか適応はありません。また、適正に使用しないと角膜に傷がついたり、角膜感染症などの重篤な合併症を起こす可能性があり、使用にあたっては厳重な管理が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

▲多焦点ソフトコンタクトレンズ

多焦点ソフトコンタクトレンズは、一般的には、老眼矯正のための遠近両用コンタクトレンズとして知られていますが、近視の進行を抑制する効果があることが複数報告されており、その効果はオルソケラトロジーに匹敵すると言われています。使い捨てで衛生面の管理も容易であり、海外では広く選択されている治療法です。

多焦点ソフトコンタクトレンズには様々なデザインがあり、近年、レンズ全体に複数の焦点距離をもたせ、眼球のピント調節の負荷を極力軽減させた“焦点深度拡張型コンタクトレンズ”の近視進行抑制効果が示され、日本でも治療の選択肢の一つとなっています。

 

 

 

▲レッドライト治療法(red light therapy)

近年、最も関心を集めている治療法です。2014年に可視光線である650nmの赤色光に眼軸長の過剰な伸展を抑えることが発見され、2021年レッドライト治療法として近視進行抑制効果が実証されました。1日2回、1回3分、週5日自宅でレッドライトを覗き込むだけの治療です。正しく治療を実施できた場合の近視進行抑制効果は約90%と報告されており、単独では最も優れた治療です。ただ、長期的な効果や安全性については今後の研究結果が待たれるところであり、眼科医の管理のもと慎重に治療を進めていく必要があります。

 

 

 

 

 

今回は増え続ける子どもの近視の現状とメカニズム、日常の対策、治療法についてお話させていただきました。2025年4月、日本で初となる近視進行抑制点眼薬であるリジュセアミニ0.025%点眼液が製造販売され、世論においても近視進行抑制治療への関心が強くなっていることが伺われます。子ども達の将来の目の健康を守るため、早めの対策が求められるようになっています。これから、この分野についてはまだまだ新しい知見が出てくると考えます。適切な治療のため、ガイドラインや学会発表を継続的にアップデートしていきたいと思います。

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